2026年度(令和8年度)調剤報酬改定では、新たに「複数名薬剤管理指導訪問料」が新設されました。
在宅医療では、薬剤師が一人で患者宅を訪問することが一般的ですが、中には薬剤師一人では安全な訪問や十分な薬学的管理が難しい患者もいます。
そのようなケースでも、薬剤師が安心して在宅医療を継続できるよう創設されたのが「複数名薬剤管理指導訪問料」です。
この記事では、新設された背景や算定要件、実務上のポイントについて詳しく解説します。
複数名薬剤管理指導訪問料とは?
複数名薬剤管理指導訪問料とは、薬剤師が単独で訪問することが困難な患者に対して、複数名で患家を訪問し、安全を確保しながら薬学的管理・服薬指導を実施した場合に算定できる点数です。
点数
300点
対象患者
次のいずれかを算定している患者が対象です。
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料1(単一建物診療患者1人)
- 居宅療養管理指導費(単一建物居住者1人)
- その他、通知で定める対象患者
算定要件
算定には次の要件を満たす必要があります。
- 医師が複数名訪問の必要性を認めていること
- 患者または家族等の同意を得ていること
- 保険薬局の薬剤師が、薬局の他の職員または在宅協力薬局の職員と同時に訪問すること
- 必要な薬学的管理・服薬指導を実施すること
なぜ新設されたの?
今回の改定の目的は、薬剤師の安全確保と質の高い在宅薬学管理の両立です。
一人では安全な訪問が難しい患者がいる
在宅医療では、
- 精神疾患
- 認知症
- BPSD(認知症の行動・心理症状)
- 運動興奮
- 攻撃的な言動
- 暴力・暴言
などがみられる患者へ訪問することがあります。
このようなケースでは、薬剤師一人では十分な服薬指導ができなかったり、身の危険を感じたりすることもあります。
今回の改定では、そのような患者にも安全に薬学的管理を提供できる体制を整えることが評価されました。
訪問看護ではすでに評価されていた
実は訪問看護では以前から、「複数名精神科訪問看護加算」という仕組みがありました。医師が必要と判断した場合には複数名で訪問し、安全を確保しながらケアを提供する体制が評価されています。
一方、調剤報酬には同様の仕組みがなく、現場では薬剤師が一人で対応せざるを得ないケースもありました。今回の改定は、この制度との整合性を図る意味合いもあります。
安全が確保されてこそ質の高い薬学管理ができる
薬剤師の仕事は薬を届けるだけではありません。
- 残薬確認
- 副作用モニタリング
- 服薬状況確認
- アドヒアランス向上
- 処方提案
など、多くの専門業務があります。しかし、安全が確保されていなければ、これらを十分に実施することはできません。複数名で訪問することで、
- 一人が患者対応
- 一人が周囲の状況確認
- 必要時の補助
など役割分担が可能となり、結果として薬学管理の質の向上につながります。
同行するのは薬剤師でなくてもよい
この点数の特徴の一つが、同行者は薬剤師である必要がないという点です。
例えば、
- 医療事務
- 登録販売者
- 管理栄養士
- その他薬局職員
- 在宅協力薬局の職員
でも算定できます。これは、薬学的判断を二人で行うことではなく、安全確保や円滑な訪問体制の構築を目的としているためです。
医師が必要と判断することが前提
「薬局が心配だから」
「荷物が多いから」
「一人で行きたくないから」
という理由だけでは算定できません。あくまでも、処方医が『複数名で訪問する必要がある』と判断していることが前提となります。
訪問開始前に医師と十分に相談しておきましょう。
併算定できない項目
次の項目とは同日に算定できません。
| 項目 | 同日算定 |
|---|---|
| 在宅患者緊急時等共同指導料 | × |
| 在宅移行初期管理料 | × |
| 訪問薬剤管理医師同時指導料 | × |
どのような患者で活用できる?
例えば次のような患者が考えられます。
- 暴力や暴言がある患者
- 興奮状態がみられる患者
- 認知症によるBPSDが強い患者
- 精神疾患により安全な訪問が困難な患者
- 薬剤師一人での訪問では安全確保が難しい患者
すべての患者で算定するものではなく、安全上の配慮が必要な患者を対象とした点数です。
まとめ
複数名薬剤管理指導訪問料は、薬剤師が危険な患者へ複数名で訪問することを評価した点数ではありません。本来の目的は、薬剤師の安全を確保しながら、どのような状態の患者であっても質の高い薬学的管理を継続して提供できる体制を整えることです。
在宅医療では、「患者さんのためだから」と薬剤師が無理をしてしまう場面も少なくありません。しかし、安全が確保されてこそ、残薬確認や副作用モニタリング、服薬支援など、本来の専門性を十分に発揮できます。今回の新設は、患者だけでなく、在宅医療に携わる薬剤師を守る制度でもあります。今後は、医師や在宅協力薬局と連携しながら、この制度を適切に活用していくことが重要になるでしょう。
これからも、在宅医療に取り組む薬剤師にとって有意義な情報を届けていこうと思います。
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