この記事では、PCAポンプについて解説します。
実際に触ったことがない人にとってはPCAポンプってそもそも何のポンプ?種類とかあるの?と思われるかもしれません。
PCAポンプは、患者が自分自身で鎮痛薬を投与するための装置であり、正確な投与量を制御することができます。
在宅医療では特にがん患者で使用されることが多いです。
以下では、PCAポンプの基本的な仕組み、種類、注意点について詳しく説明します。
PCAポンプとは
PCAポンプの定義
PCA(Patient-Controlled Analgesia)とは「患者自己調節鎮痛法」という疼痛管理法の1種であり、患者自身が専用の注入装置 (PCAポンプ) を操作して、自己調節的に鎮痛薬を投与する方法です。
在宅医療では主に癌性疼痛の緩和を目的に処方される医療用麻薬注射剤の投与に使用されます。
従来の鎮痛薬の投与方法では、看護師や医師が一定の時間間隔で薬を投与する必要がありましたが、PCAポンプは患者が自分の痛みをコントロールすることができるようになります。
PCAポンプは以下の3つの要素で構成されています。
持続投与機能
レスキュー投与機能(ボーラス投与)
ロックアウトタイム
▶持続投与機能は24時間持続的に注射薬を投与することで持続的な痛みを取り除くことができます。
▶レスキュー投与機能は突出痛など急激な痛みが発生したときにボタンを押すことで一定量の薬剤が追加投与されます。
ボーラス (bolus: 急速静注) 投与と呼ぶこともあります。
▶ロックアウトタイムは不応期とも呼ばれ、投与過剰を防ぐ機能です。
1回レスキュー機能を使用した後、一定時間は使用できないように制御されています。
PCAポンプを導入する際には以上の3要素について患者や介護者に説明します。
痛みの強さと持続投与、レスキュー投与のイメージ図は以下のようになります。
目的
PCAポンプは、疼痛管理を個別化し、患者が自己決定権を持つことを目的としています。
患者は自分の痛みの程度やタイミングに応じて鎮痛薬を投与できるため、痛みをより効果的に管理することができます。
また、自己投与により痛みの感じ方や忍耐力の個人差を考慮することができ、患者の満足度や快適さの向上にも寄与します。
身体的苦痛の1つの痛みがあると食事を楽しめなかったり、睡眠が十分にとれなかったりと生活の質が低下してしまいます。
PCAポンプを用いて痛みを自己調節することで患者は普段の生活を取り戻すことが出来るかもしれません。
PCAポンプのメリット/デメリット
メリット
- 患者が痛みを我慢する必要がない
- PCAポンプによって迅速に、安全に鎮痛剤を投与できる
- 投与量を確認することで疼痛評価がしやすい
デメリット
- 患者の理解度によっては過剰投与に繋がる危険性がある
- 常にPCAポンプを身に着けておかなければならない
- 長期的に使用すると感染リスクとなる
- 医療者がPCAポンプの扱い方を習得する必要がある
PCAポンプの種類
PCAポンプは大まかにわけて「機械式」と「携帯型ディスポーザブル式」、そしてそれぞれの特性を持ち合わせた「ハイブリッド式」に分類されます。
それぞれの違いや特徴について解説します。
機械式ポンプ
特徴
- 持続投与速度、レスキュー投与量が調節可能
- 流量精度が安定
- 気泡や閉塞検知して警報
- 重量があるため移動に制限
- 機器本体や薬液カセットに費用がかかる
- 予備の電源やバッテリーが必要
機械式PCAは、患者の状態に合わせた持続投与速度の制御や、レスキュー投与量の調整調節が可能で、その患者に見合った薬剤の投与量を細かく設定することが可能です。
機種によっては持続投与と レスキュー投与に加え、間欠投与やプログラム投与も可能となっており、多用途に使用できます。
また、マイクロプロセッサを内蔵しており、安定した流量精度を維持することが出来ます。
気泡センサや閉塞センサを備え、気泡の混入や輸液ラインの閉塞などの不測の事態に対し警報音が鳴り投与が中止されることから、安全に使用することができます。
ただし欠点として機械式 PCA は駆動源となるモーターやバッテリーが内蔵されており、メカ部品もあることから重量があります。
患者の移動時には輸液スタンドを必要とすることが多く、移動の制限となることがあります。
また、機器本体の購入としての初期投資が必要となり、専用の薬液カセットも一定の費用が必要なことから、コスト面で導入の妨げとなることがあります。
注意すべき点としてはポンプ単体のバッテリーや電源が切れないよう、予備のバッテリーや電源を用意しておかなければなりません。
主な機種
- CADD Legacy® PCA
- CADD Solis® PCA
- ニプロ携帯型精密輸液ポンプPCAタイプ
- アイフューザープラス®
- テルフュージョン®小型シリンジポンプ
地域で主に使用されているポンプを把握しておくことが重要です。
操作が機種それぞれで異なるため、訪問看護師に向けた勉強会などを行っていくことも必要です。
CADD Legacy® PCA
CADD Solis® PCA
ニプロ携帯型精密輸液ポンプPCAタイプ
アイフューザープラス®
テルフュージョン®小型シリンジポンプ
携帯型ディスポーザブルポンプ
特徴
- 1回使い切りで持ち運びが容易
- 持続投与速度、レスキュー投与量、ロックアウトタイムは固定
- 流量精度は環境に依存する
- ポンプ本体が保険償還可能
- メンテナンス不要
携帯型ディスポーザブル注入ポンプは、駆動源の違いによりバルーン型(バルーンの収縮力が駆動源)と大気圧型(薬液充填により発生する真空が駆動源)があります。
また、持続投与速度が変更できるタイプと速度固定のタイプがあります。
携帯型ディスポーザブル注入ポンプは滅菌済みとなっており、開封後直ちに使用できます。
また初期投資が不要で軽量であることや、特定保険医療材料となっていることから、広く臨床現場に普及しています。
簡便で軽量である特徴を活かし、手術後の疼痛管理に加え、在宅や外来での用途にも広がっており、調剤薬局での交付も可能です。
環境温度や薬液の粘性、駆動源の圧力変化により流速が変動することから注意が必要です。
また、投与速度が変更できるタイプも変更範囲は限定的で、PCA 投与量やロックアウトタイムの変更は出来ません。
注入トラブルなどが起こった場合でもアラームが鳴るわけではないので、問題が生じていても発見が遅くなることもあります。
さらに薬液の残量も目視での確認となるため、目盛りを正しく読むことが必要となります。
1回使い切りであるため、メンテナンス作業は不要です。
主な機種
- クーデックバルーンジェクター
- クーデックシリンジジェクター
- DIB-PCAシステム
- シュアフューザーA®
- バクスターインフューザー
流量制御にはハーゲン・ボアズイユの法則 (細い円管内を流れる液体の体積は流体の粘性の影響を受ける) が用いられるため、環境温度が大きく変化すると薬液の粘性に影響し、流速が変化する可能性があります。
例えばシュアフューザーA®の場合流量制御部は皮膚温の32℃に設定されているため、肌に密着させることが必要です。
クーデックバルーンジェクター
クーデックシリンジジェクター
DIB-PCAシステム
シュアフューザーA®
バクスターインフューザー
ハイブリッド式
「機械型」と「ディスポーザブル式」を組み合わせたハイブリッド型のポンプはそれぞれのポンプの利点を併せ持っています。
- 流量が変更可能
- 精度が高い
- 容量が大きく交換が簡単
- 保険償還が可能
携帯型ディスポーザブル式では基本的に流量の変更はできませんでしたが、ハイブリッド型では機械式と同様に流量変更が出来るので、より適切な疼痛管理が可能となります。
流量精度についても環境に依存していないため、機械式同様に高い投薬精度をもちます。
また、容量についても大容量のものを使用することが出来るため、薬液の充填や交換の頻度を抑えることができ、容器交換も比較的簡単であるため作業時間を短縮することが出来ます。
機械式ポンプでは容器については医療機関の持ち出しとなりますが、ハイブリッド型では携帯型ディスポーザブル式と同様に容器代の保険償還が可能です。
コスト面においても機械式と比べてメリットがあります。
(携帯型と比較するとやや高くなる)
以上より、ハイブリッド型では機械式と携帯型ディスポーザブル式の長所を組み合わせたものであるため、優秀な点が多いです。
主な機種
- クーデックエイミー®PCA
2023年6月時点においてハイブリッド型に分類されるPCAポンプはクーデックエイミー®PCAのみです。
クーデックエイミー®PCA
以下の記事で詳細に解説しているので参考にしてください。
PCAポンプの比較表
ここまででPCAポンプについて解説してきましたが、各ポンプ(※一部割愛)の機能を比較できるように表を作成したので参照してみてください。
関係する加算
薬局
在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算 250点
麻薬管理指導加算 22点 / 100点
PCAポンプを用いて麻薬注射剤を使用した場合には「在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算」もしくは「麻薬管理指導加算」が算定出来ます。
(同時には算定不可)
ただし、「在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算」は「在宅患者訪問薬剤管理指導料」「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料」「在宅患者緊急時等協同指導料」のいずれかを算定した場合にのみ、加算されます。
介護保険の「居宅療養管理指導費」「介護予防居宅療養管理指導費」は対象外となるので注意してください。
介護保険と医療保険の違いについては別の記事で解説しています。
「在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算」算定には届出が必要です。
届出をしていない場合には麻薬管理指導加算を算定します。
麻薬管理指導加算や在宅患者医療用麻薬持続注射療法加算については別の記事で詳細に解説しています。
病院・診療所
C108 在宅抗悪性腫瘍等患者指導管理料 1500点
C161 注入ポンプ加算 1250点
C166 携帯型ディスポーザブル注入ポンプ加算 2500点
PCAポンプによる麻薬注射剤による疼痛コントロールを行った場合に「C108 在宅抗悪性腫瘍等患者指導管理料」が算定できます。
ポンプの種類によって「C161 注入ポンプ加算」もしくは「C166 携帯型ディスポーザブル注入ポンプ加算」のいずれかを算定します。
機械式の場合は「C161 注入ポンプ加算」を算定し、
携帯型ディスポーザブル式、ハイブリッド式の場合は「C166 携帯型ディスポーザブル注入ポンプ加算」を算定します。
以下の記事で詳細に解説しています。
病院・診療所の診療報酬についても関係してくるところは押さえておきましょう。
まとめ
PCAポンプは疼痛管理において重要なツールであり、薬局薬剤師にとっても理解しておくべきテーマです。
適切な知識とトレーニングを通じて、患者の痛みを軽減し、安全な医療を提供するために活用しましょう!
まとめ資料を以下に掲載しておきます。
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