実際にあった在宅緩和の症例、PCAポンプ導入依頼のあったときの思考も含めて紹介します。
個人情報保護を目的に一部改変しておりますので、ご了承ください。
医師からの連絡
ある平日のお昼過ぎ・・・あるクリニックから電話
●●クリニックはこれまで何度も連携したことがある医療機関で、いつもPCAポンプを導入する際には私に連絡してくれます。
医療用麻薬の投与設計についても完全にお任せしてくれる(?)医療機関。
新しく医師が入られたようでした。
聞き取った情報
80代男性、膵臓がん末期
- 疼痛は腹部の鈍痛。
- オキシコドンの内服で除痛試みるが内服拒否でフェンタニルクエン酸塩テープ1日用2mgを使用
- 昨晩から痛み増強しているが、オキノーム散は内服拒否で妻が困っている。
- 予後は1~2ヶ月
- 腎機能低下はなし
本人は自宅での療養を希望するが、同居の妻が主介護者であり、入院することを示唆している。
提案内容
以下を提案
オキシコドン注50mg/5mL 10A
生理食塩液 50mL
合計 100mL
CADD Legacy PCAポンプにてベース0.2mL/h、レスキュー1時間量
フェントステープは夕方に剥がしてベース0mL/h、レスキューのみで開始、翌朝ベース開始
個別に解説してきます。
オピオイドの選択
今回の場合、オキシコドン以外でも良いと思います。
例えば腎機能低下あればモルヒネは避ける、呼吸苦があればフェンタニルは避けてモルヒネやヒドロモルフォンを選択するなど考えます。
ただし、在宅では安全域が狭いフェンタニルは避ける傾向がある印象です。
薬局の在庫、これまで使用していたオピオイドであること、高齢であるため腎機能低下等を考慮してオキシコドンを選択しました。
(あと個人的にオキシコドンが最も使い慣れているため)
オピオイドの使い分けについては以下の記事も参考にしてください。
投与量の換算
フェントステープ2mgをオキシコドン注の皮下注24mg/日になるように処方提案しています。
本来であればフェントステープ2mg → オキシコドン注30mgなりますが、別の薬剤なので若干減量して24mg/日になるように提案しました。
オピオイド間では交差耐性の不一致により、変更後に過量投与になるおそれもあることから少な目に変更することが多いです。
24mgにする理由やオピオイドスイッチの計算は以下の記事でも紹介しています。
希釈・投与速度
1日投与量は以下の式で計算できます。
1日投与量 (mg/日) =薬液濃度 (mg/mL) × 投与速度 (mL/h) × 24 (h;時間)
オキシコドン注24mg/日とするにはいくつか選択肢があります。
- オキシコドン注1% (10mg/mL) を原液のまま0.1mL/h
- オキシコドン注1%を2倍希釈 (5mg/mL) して0.2mL/h
- オキシコドン注1%を4倍希釈 (2.5mg/mL) して0.4mL/h
- オキシコドン注1%を5倍希釈 (2mg/mL) して0.5mL/h
- オキシコドン注1%を10倍希釈 (1mg/mL) して1.0mL/h
ざっと上記のように5パターン考えられます。
(もちろん他にもあります)
どれでも間違いではありません。
今回②のパターンを選択しましたが、その理由について解説していきます。
考えるべきはポンプの種類、投与経路、疼痛コントロール状況の3点です。
ポンプの種類によって薬液の容量や流量設定の下限や刻みが異なってきます。
投与経路について皮下注では1mL/hが上限となることや、静脈投与では感染リスクを特に意識して薬液の交換頻度を1週間程度になるように考える必要も出てきます。
疼痛コントロール状況を考えると今後、増量することが多くなりそうかどうかで投与速度に余裕を持たせるかどうか、増量が多くなると交換頻度が増えたり、皮下注の1mL/hを超える可能性を考えなければいけません。
今回の症例でのポイントは以下に示します。
ポンプ:CADD Legacy PCAポンプ(理由は後述)
投与経路:皮下注
疼痛コントロール状況:夜間疼痛訴えているため除痛不十分
ここから選択肢一つずつについて掘り下げていきます。
①オキシコドン注1% (10mg/mL) を原液のまま0.1mL/h
これが最もシンプルですね。
原液のまま0.1mL/hで投与すれば24mg/日となります。
容量については50mLを使用したとしても20日分以上であり、更新頻度が短くなりすぎることはなさそうです。
問題点としては、CADD Legacy PCAポンプを使用しているので流量下限は0.1mL/hであり、今後増量するとしたら0.1mL/h (24mg/日) から2倍の0.2mL/h (48mg/日) となってしまいます。
ベースの増量は1.5倍までに留めておくことが推奨されています(出典)ので2倍はよろしくないですね。
これがテルモ小型シリンジポンプを用いるのであれば0.05mL/h刻みで設定できるので、問題はないと思います。
もう1点、薬局のコスト面を考えた場合、オキシコドン注のみの充填だと無菌製剤処理加算が算定できません。
今後、別の記事で解説します。
以上のことから「①オキシコドン注1% (10mg/mL) を原液のまま0.1mL/h」は除外します。
②オキシコドン注1%を2倍希釈 (5mg/mL) して0.2mL/h
それでは続いて希釈した場合について見ていきます。
まず2倍希釈から。
結論から言うと今回の症例ではこの②を選択しています。
①で出てきた問題点である「増量したときに2倍になる」については0.2mL/h→0.3mL/hで1.5倍にとどまるので特に問題はありません。
今後増量していくとしても0.2→0.3→0.4→0.6→0.8→1.2mL/hとなることが予想されますが、皮下注の上限である1.0mL/hを超えるまでに5段階増量可能です。
また、レスキュー使用なしで4.8mL/日の薬液量となりますが、CADD Legacy PCAポンプのカセット容量の最も小さい50mLでも約10日分となり、日数としても安心です。
③オキシコドン注1%を4倍希釈 (2.5mg/mL) して0.4mL/h
さらに希釈した場合を考えていきます。4倍希釈 (2.5mL/mL) して0.4mL/hで投与した場合も24mg/日となります。
次に増量する場合には0.4→0.5mL/hや0.4→0.6mL/hなど細かく設定できるようになります。
続けて増量する場合は0.4→0.6→0.8→1.2mL/hなどとなり、こちらも4段階で増量することが出来るので
現在の状態が安定していて少しずつ増量する場合であればこれでも良さそうです。
今回の症例では除痛が不十分な状態であることからまだ微調整するような状態ではなかったので、選択しませんでしたが、選択しても問題はないと考えます。
④オキシコドン注1%を5倍希釈 (2mg/mL) して0.5mL/h
オキシコドン注1%を5倍希釈 (2mg/mL) して0.5mL/hとしても24mg/日となります。
この④は③と似たような希釈濃度なので好みで選んでも良いかもしれません。
個人的には5倍希釈で投与していたものが、投与量が増えてきた場合に濃度や速度を変更する際に計算がスッキリ合わないことがあることが気持ち悪くて悩むことがあります。
例えば・・・今後増量したとして5倍希釈 (2mg/mL) で1.2mL/h (57.6mg/日)となり皮下注の上限となるため濃度変更することになった場合
2倍希釈 (5mg/mL) で0.5mL/h →60mg/日 となり、少し投与量が変わってしまうことになります。
実際には誤差範囲であるので、臨床上大きな問題はないと考えます。
「4倍希釈」より「5倍希釈」のほうがキリが良く見えますので、どちらも好みで良いかもしれません。
⑤オキシコドン注1%を10倍希釈 (1mg/mL) して1.0mL/h
最後に10倍希釈 (1mg/mL) を考えてみます。
これは皮下注の上限である1.0mL/hからの開始となるので増量する場合はすぐに濃度変更が必要となるので、都合が悪いですね。
メリットとしては細かく流量設定が出来ることです。
皮下注ではなく、静注であれば選択肢として十分考えられます。
ただし、薬液の容量も十分必要となることに注意が必要です。
24mL/日必要となるので100mLのものでも4日程度、250mLでようやく10日分となるので増量する場合の更新頻度は高くなります。
PCAポンプの種類
続いてPCAポンプの種類について解説します。
機械式、ディスポーザブル式、ハイブリッド式と様々な選択肢がある中で、結論としては、どれを選択しても特に問題はないと思います。
それぞれ地域で使われているデバイスも異なるので、地域の特性に応じて選択しましょう。
今回はCADD Legacy PCAポンプを選択しました。
その理由としては
- 地域で最も使われている機械式PCAポンプを選択
- シリンジポンプは容量が小さいこと、ベース0mL/hが不可
- クーデックエイミーでも良かったが、入院する可能性があったため使い慣れているデバイス
PCAポンプについては以下の記事で解説しているので、参考にしてください。
開始するタイミング
【今回の提案】
フェントステープは夕方に剥がしてベース0mL/h、レスキューのみで開始、翌朝ベース開始
CADD Legacy PCAポンプ、クーデックエイミーPCAポンプの場合、ベース 0mL/h でレスキューのみが可能です。
オキノーム散内服拒否のためレスキュー用としてPCAポンプを使用するということが今回のスイッチングの目的であるため、フェントステープの剥離直後はベースは0mL/hとしました。
疼痛が悪化しているような状況であれば、半分量だけ開始するなどの検討が必要ですね。
今回は夕方にフェントステープを剥離したので翌朝からベース開始することとしました。
この時間については患者の疼痛状況や訪問看護師さんの訪問時間によって調整するのが現実的でしょう。
その後
提案どおりの処方内容でPCAポンプが開始されました。
もちろん、医師の考え方もあるので、提案通りではないこともありますし、考え方を把握して提案することも重要です。
開始の際には訪問看護師さんに連絡して時間を合わせて患家を訪問します。
その際にPCAポンプの使い方や、ベースを0mL/hから0.2mL/hに増量するタイミングについても共有します。
翌朝に増量することとなったため、その際にも同席して疼痛評価も合わせて実施することとしました。
ベース開始後は疼痛コントロールは改善され、副作用もなく、自宅で過ごすことが出来ました。
1週間後に妻の介護の限界となって入院となってしまいましたが、ポンプを使い慣れているものを選択していたおかげで、特にトラブルなく入院することが出来ました。
まとめ
今回の記事では在宅緩和ケアの症例について、考え方の詳細も含めて解説しました。
考え方については様々あるので、今回紹介したものが100点の正解ではないかもしれません。
患者の背景や地域の医療資源を考慮して提案することが重要です。
参考にしてもらえれば幸いです。
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