2022年度に新設された在宅中心静脈栄養法加算について徹底解説します。
在宅医療では高カロリー輸液により栄養補給が必要な患者を担当することもあります。
そのような際に算定しますが、これまで医療保険に限られていました。
令和6年度介護報酬改定において介護保険でも算定可能となりました!
この記事を読むことで「在宅中心静脈栄養法加算」について必要な施設基準や届出、算定要件、薬歴の記載方法まで理解することが出来ます。
TPN:中心静脈栄養法 (Total parenteral nutrition)
HPN:在宅中心静脈栄養法 (Home parenteral nutrition)
概要
要件
別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険薬局において、在宅中心静脈栄養法を行っている患者に対して、その投与及び保管の状況、配合変化の有無について確認し、必要な薬学的管理及び指導を行った場合(注2に規定する場合を除く。)は、在宅中心静脈栄養法加算として、1回につき150点を所定点数に加算する。
「所定点数」とは
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料
- 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
- 在宅患者緊急時等共同指導料
上記の点数が算定されている場合においてのみ「在宅中心静脈栄養法加算」を加算することができます。
2023年度まで介護保険(居宅療養管理指導費)では加算できないので注意してください。
医療保険と介護保険の使い分けについては以下の記事を参考にしてください。
ただし、介護保険の利用者であっても、緊急時には医療保険の「在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料」などを算定することになるので、その際には加算可能です。
算定漏れがないようにしましょう。
施設基準
医薬品医療機器等法第三十九条第一項の規定による高度管理医療機器の販売業の許可を受けている又は同法第三十九条の三第一項の規定による管理医療機器の販売業の届出を行っていること。
高度管理医療機器販売業 もしくは 管理医療機器 の販売業の許可が必要です。
ただし、管理医療機器販売業の届出について、薬局は届出されているとみなされているため、特別に届出する必要はありません。
無菌調剤設備は要件に含まれていません。
算定要件のポイント解説
- 在宅で中心静脈栄養法を行っている患者に対して
- 投与及び保管の状況、配合変化の有無について確認し、必要な薬学的管理及び指導を実施
在宅で中心静脈栄養法を行っている患者とは
在宅で高カロリー輸液を投与されている患者を言います。
電解質輸液や末梢輸液は該当しないので注意してください。
輸液ポンプも使用されることが多いです。
キット製剤だけでも算定可能です!
投与及び保管の状況、配合変化の有無
この項目については後述する「薬歴記載方法」の項目にて詳細に解説します。
薬剤師に求められる役割
この加算が新設されるに至った中医協では以下のような役割が期待されています。
- 処方提案 (中心静脈栄養輸液セット、針、ポンプ等)
- 輸液セットや機械式注入ポンプなどの使用に関する指導
- 輸液の保存性に配慮した分割調剤、頻回訪問、運搬
- カテーテル感染防止対策、栄養状態等を踏まえた服薬指導
- 退院調整(退院時カンファレンス、病院薬剤部との事前調整)
- 訪問看護との連携(訪問看護の訪問スケジュール、ルート交換タイミング確認など)
- 院外処方可能な処方提案(院外処方可能な注射薬が限られている)
- 消毒液や医療衛生材料の供給
【2021年11月26日中医協総会資料より】
とても多くのことが期待されています。
処方提案 (中心静脈栄養輸液セット、針、ポンプ等)
入院中に複数の輸液の混注を行っている場合でも退院後は出来るだけシンプルな方が望ましいです。
無菌調製できる薬局も限られているので、エルネオパ®などのキット製剤単独で行うことが出来るのであれば、無理に混注する必要もなくなります。
もちろん、腎不全や電解質異常がある場合や小児の場合などでは、個別に輸液メニューを組まなければなりません。
輸液セットや機械式注入ポンプなどの使用に関する指導
HPNを行っている場合、ほとんどのケースで輸液ポンプを使用します。
それを使用するためには専用の輸液セットが必要となるのでそれらの使用方法を指導します。
例えばカフティーポンプS® (エア・ウォーター・メディカル社)では専用のテルフュージョンポンプ用チューブセットが必要です。
輸液セットの交換頻度については血管内留置カテーテル由来感染の予防のためのCDCガイドライン 2011では少なくとも7日以内の交換を推奨しています。
従って週に1~2回の交換するように指導しますが、医療機関側で算定するチューブセット加算では月6セットまでとなっているので、その点にも注意が必要です。
医療機関の診療報酬については以下の記事を参考にしてください。
輸液の保存性に配慮した分割調剤、頻回訪問、運搬
輸液の混注が必要なケースにおいては、輸液の安定性を考慮し、分割して調剤します。
分割調剤等については以下の記事に記載しているので参考にしてください。
HPNを受けている患者の場合、居宅療養管理指導費/在宅患者訪問薬剤管理指導料は週に2回算定出来ますが、それを超えて訪問するケースも出てきてしまいますね・・・。
カテーテル感染防止対策、栄養状態等を踏まえた服薬指導
カテーテル感染は最も注意すべきことです。
輸液交換前後の投与口の消毒や、輸液セットの交換頻度について指導を行います。
また、栄養状態を踏まえた服薬指導の実施も求められています。
在宅では血液検査の実施はそこまで頻回に行えませんが、体重の確認は比較的しやすいです。
デイサービスなどで入浴前に測定していたりすることもあるので、体重の変化を確認することで栄養状態を評価することができます。
そのような評価をしたうえで服薬指導や処方提案につなげていけると良いでしょう。
退院調整(退院時カンファレンス、病院薬剤部との事前調整)
入院中に高カロリー輸液を混注しているケースでは在宅では出来るだけシンプルにします。
無菌調剤できる薬局もありますが、可能であればキット製剤単独の方が衛生的なので助かります。
変更可能なものかを病院薬剤部と相談しながら検討します。
退院カンファレンスがあれば多職種で情報を共有することが出来ます。
退院後の初回訪問時間の調整や、近年では出荷調製品の代替品の検討も行います。
また、自宅で使用する輸液ポンプは薬局から貸し出すものである場合、入院中の医療機関に事前に持っていくことになります。
ポンプについて、無菌調剤については以下の記事を参考にしてください。
訪問看護との連携(訪問看護の訪問スケジュール、ルート交換タイミング確認など)
訪問看護師は在宅医療の要なので、連携は必須となります。
混注が必要なケースでは、点滴交換の時間を把握しておくことも必要です。
必要に応じて訪問看護師と時間を合わせて訪問します。
輸液チューブの交換の頻度についても患者の生活に合わせて、訪問看護師と相談することもあります。
院外処方可能な処方提案(院外処方可能な注射薬が限られている)
注射薬については以下のように院外処方可能なものが限られています。
療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等
(平成 18 年厚生労働省告示第 107 号)(抄)
第十 厚生労働大臣が定める注射薬等
一 療担規則第二十条第二号ト及び療担基準第二十条第三号トの厚生労働大臣が定める保険医が投与することができる注射薬
インスリン製剤、ヒト成長ホルモン剤、遺伝子組換え活性型血液凝固第Ⅶ因子製剤、乾燥濃縮人血液凝固第Ⅹ因子加活性化第Ⅶ因子製剤、乾燥人血液凝固第Ⅷ因子製剤、遺伝子組換え型血液凝固第Ⅷ因子製剤、乾燥人血液凝固第Ⅸ因子製剤、遺伝子組換え型血液凝固第Ⅸ因子製剤、活性化プロトロンビン複合体、乾燥人血液凝固因子抗体迂回活性複合体、性腺刺激ホルモン放出ホルモン剤、性腺刺激ホルモン製剤、ゴナドトロピン放出ホルモン誘導体、ソマトスタチンアナログ、顆粒球コロニー形成刺激因子製剤、自己連続携行式腹膜灌流用灌流液、在宅中心静脈栄養法用輸液、インターフェロンアルファ製剤、インターフェロンベータ製剤、ブプレノルフィン製剤、抗悪性腫瘍剤、グルカゴン製剤、グルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニスト、ヒトソマトメジンC製剤、人工腎臓用透析液(在宅血液透析を行っている患者(以下「在宅血液透析患者」という。)に対して使用する場合に限る。)、血液凝固阻止剤(在宅血液透析患者に対して使用する場合に限る。)、生理食塩水(在宅血液透析患者に対して使用する場合及び本号に掲げる注射薬を投与するに当たりその溶解又は希釈に用いる場合に限る。)、プロスタグランジンI2製剤、モルヒネ塩酸塩製剤、エタネルセプト製剤、注射用水(本号に掲げる注射薬を投与するに当たりその溶解又は希釈に用いる場合に限る。)、ペグビソマント製剤、スマトリプタン製剤、フェンタニルクエン酸塩製剤、複方オキシコドン製剤、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム製剤、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム製剤、デキサメタゾンメタスルホ安息香酸エステルナトリウム製剤、プロトンポンプ阻害剤、H2遮断剤、カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム製剤、トラネキサム酸製剤、フルルビプロフェンアキセチル製剤、メトクロプラミド製剤、プロクロルペラジン製剤、ブチルスコポラミン臭化物製剤、グリチルリチン酸モノアンモニウム・グリシン・L-システイン塩酸塩配合剤、アダリムマブ製剤、エリスロポエチン(在宅血液透析又は在宅腹膜灌流を行っている患者のうち腎性貧血状態にあるものに対して使用する場合に限る。)、ダルベポエチン(在宅血液透析又は在宅腹膜灌流を行っている患者のうち腎性貧血状態にあるものに対して使用する場合に限る。)、テリパラチド製
剤、アドレナリン製剤、ヘパリンカルシウム製剤、オキシコドン塩酸塩製剤、アポモルヒネ塩酸塩製剤、セルトリズマブペゴル製剤、トシリズマブ製剤、メトレレプチン製剤、アバタセプト製剤、pH4処理酸性人免疫グロブリン(皮下注射)製剤、電解質製剤、注射用抗菌薬、エダラボン製剤(筋萎縮性側索硬化症患者に対して使用する場合に限る。)、アスホターゼ アルファ製剤、グラチラマー酢酸塩製剤、脂肪乳剤及び、セクキヌマブ製剤、エボロクマブ製剤、及びアリロクマブ製剤
二 (略)
覚えきれませんね(笑)
いずれこの内容についても記事にする予定ですが、ここでは院外処方可能な注射薬は限定されているということだけ、覚えておいてください。
今回の記事で関係してくるようなものとして、ヘパリンNa注は高カロリー輸液や電解質製剤と一緒でないと処方することが出来ないことに注意が必要です。
院外処方できない注射剤もあるということを考慮した上で処方提案することが求められます。
詳細は以下の記事を参考にしてください。
消毒液や医療衛生材料の供給
消毒液や医療衛生材料の供給についてはHPNに限らず在宅医療に関わる薬剤師に求められてる役割ですね。
HPN患者で使用されるものとして輸液チューブやフィルムドレッシング剤、フーバー針などがあります。
このような物品の供給も行います。
処方箋に記載できるのか、薬局が取り扱うことが出来るのかなどは高度管理医療機器であるか、特定保険医療材料であるかなどで変わってきます。
こちらについても今後改めて記事としていく予定です。
薬歴の記載
「調剤管理料で求められる記載事項」、「在宅患者訪問薬剤管理指導料等で求められる記載事項」に追加して以下の内容を薬歴に記載する必要があります。
- 在宅患者中心静脈栄養法に係る薬学的管理指導の内容
- 患者・家族への指導の要点
- 輸液製剤の保管管理に関する情報
- 処方医及び関係する医療関係職種への情報提供
在宅患者中心静脈栄養法に係る薬学的管理指導の内容
栄養状態の確認として体重であったり、経口摂取もしているのであれば、それも含めた必要な栄養素やカロリーについて評価しましょう。
また、血液検査等を実施しているのであれば、その結果などを確認していきます。
患者・家族への指導の要点
患者・家族への指導内容を記載します。
特に重要なのは感染対策でしょう。
輸液の交換前に手指を洗うことや消毒操作等の指導を繰り返し行うようにしましょう。
次の項目にある輸液の保管管理に関する情報についても重要なので、指導します。
輸液製剤の保管管理に関する情報
特に混注している場合には保管管理については丁寧な指導が必要となります。
基本的には混注した輸液は冷蔵庫保管としていますが、使用する1時間前には使用する部屋に移して室温に戻しておく必要があります。
これは液温の上昇に伴い、気泡発生することがあるためです。
また、キット製剤単体でも注意が必要です。室温 (1~30℃) 保管となります。
内服薬や坐剤についてはそこまで場所取らないので部屋に置いていることが多いですが、輸液は大量になると部屋ではなく、廊下などに保管していることがあります。
冷暖房がきかない場合、地域にもよりますが冬に0℃以下、夏場は30℃以上になることがあるので注意が必要となりますので。指導を行いましょう。
薬歴記載例1 (キット製剤・混注なし)
開封前の輸液については室温(1~30℃) で保管するように指導
薬歴記載例2 (混注あり)
輸液は冷蔵庫で保管し、使用の1時間前までに部屋に出しておくように指導
処方医及び関係する医療関係職種への情報提供
訪問指導料においても処方医や関係職種への情報提供は必要とされていますが、在宅中心静脈栄養法加算においても必要です。
複数の注射剤が投与される場合に、同時投与が可能なのか、又は配合変化などが考えられるため、別々に投与する必要があるのか等を訪問看護師などの関係職種に情報提供することが必要となります。
届出
医療保険においては通常の届出で構いませんが、介護保険については電子的に申請することになっています。
この項目については今後、追記していく予定です。
まとめ
今回の記事では在宅中心静脈栄養法加算について解説しました。
これまでは医療保険でしか算定出来ませんでしたが、令和6年6月以降は介護保険でも算定可能となりますので、算定する機会が多くなります。
算定要件を理解し、薬歴への記載についても漏れがないように気を付けましょう。
まとめ資料を以下に掲載しておきます。
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