在宅医療に関して無菌調製に関する依頼を受けることがあります。
最近では地域連携薬局や在宅薬学総合体制加算2のの要件になっていることも追い風となり、クリーンベンチを設置する薬局も増えてきました。
在宅薬学総合体制加算については以下の記事を参考にしてください。
実際に無菌設備にて調剤を行った場合に無菌製剤処理加算を算定することができますが、その注意点についてまとめました。
概要
無菌製剤処理加算とは、保険薬局が厚生労働大臣が定める施設基準に適合していることを地方厚生局長等に届け出た場合に、中心静脈栄養法用輸液、抗悪性腫瘍剤、または麻薬について無菌製剤処理を行った場合に算定できるものです。
施設基準
- 2名以上の保険薬剤師の在籍
- 無菌室、クリーンベンチ、安全キャビネットを備えている、もしくは他薬局の無菌調剤室を共同利用可能である
共同利用の場合は「無菌調剤室」であることが必要です。
クリーンベンチのみ等では共同利用としての届出は出来ません。
(2)無菌調剤室は、以下の要件を満たすものであること。
①高度な無菌製剤処理を行うために薬局内に設置された、他と仕切られた専用の部屋であること。無菌製剤処理を行うための設備であっても、他と仕切られた専用の部屋として設置されていない設備については、無菌調剤室とは認められないこと。
②無菌調剤室の室内の空気清浄度について、無菌製剤処理を行う際に、常時 IS014644―1に規定するクラス7以上を担保できる設備であること。
③その他無菌製剤処理を行うために必要な器具、機材等を十分に備えていること。
「平成24年8月22日 薬食発0822第2号」より一部抜粋
後述する平成26年度調剤報酬改定の疑義解説資料にも記載されています。
クリーンベンチの種類
クリーンベンチにも大きさによって様々な種類があります。
ユヤマ社製のクリーンベンチだけ見てもいくつかのタイプがあります。
足までついているものが一般的ですが、卓上タイプでも大きさが複数あります。
金額としては通常タイプが100万円前後、卓上タイプが50万円前後、小型 (簡易式) タイプが数万円~20万円程度を目安となります。
どれが良いか?という点について結論としては「無菌製剤処理を行う際に、常時 IS014644―1に規定するクラス7以上を担保できる」ことを満たせばなんでもOKです。
この「IS014644―1に規定するクラス7」はどの程度でしょうか?
一般的なクリーンベンチでは「清浄度:Class-100」などと記載されており、統一されていません。
清浄度:Class-100とは、1立方フィートあたり0.5μm以上の粒子が100個以内であるという清浄度クラスです。
数字が小さいほど清浄度は高くなります。
「IS014644―1に規定するクラス7」は清浄度:Class-10,000です。
以下の相対表を参考にしてください。
つまり、清浄度:Class-100であれば十分に要件を満たせています。
大きさを選択する場合には設置想定場所のスペースと、何を無菌調製することを目的としているか考える必要があります。
高カロリー輸液を調製することを想定しているのであれば十分な大きさのクリーンベンチを選択する必要があります。
一方でPCAポンプを用いる際の麻薬注射剤の混注のみを想定しているのであれば小型タイプでも十分です。
もし、抗がん剤の調製のためには通常のクリーンベンチでは不十分です。
調製者への薬剤暴露を防ぐために安全キャビネット (バイオハザード対策用キャビネット) が必要となります。
現在はまだ薬局での注射抗がん剤の調製することは少ないため、ここまでの設備を導入する必要はないと考えます。
また、簡易クリーンスペースとして清浄度:Class-100としているものもあり、10万円程度で販売されております。
※理論上は要件を満たすことが出来る例であるため、実際にそれで認められるか管轄の保健所等にご確認ください。
ただし、簡易的な製品では大きさには制限があるので、高カロリー輸液等の調製には不向きであり、小さなPCAポンプのための麻薬注射剤の混注で使用するのが現実的だと考えます。
算定要件
注射薬について、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険薬局において、中心静脈栄養法用輸液、抗悪性腫瘍剤又は麻薬につき無菌製剤処理を行った場合は、1日につきそれぞれ69点、79点又は69点(6歳未満の乳幼児の場合においては、1日につきそれぞれ137点、147点又は137点)を加算する。
無菌製剤処理加算 |
6歳以上 |
6歳未満 |
中心静脈栄養法輸液 |
69点 |
137点 |
抗悪性腫瘍剤 |
79点 |
147点 |
麻薬 |
69点 |
137点 |
- 「無菌製剤処理」とは、無菌室・クリーンベンチ・安全キャビネット等の無菌環境の中で、無菌化した器具を使用し、無菌的な製剤を行うこと
- 注射薬を無菌的に製剤した場合に、1日分製剤するごとにそれぞれ加算する
(イ) 2以上の注射薬を混合して中心静脈栄養法用輸液を無菌的に製剤する場合には69点(6歳未満の乳幼児の場合は137 点)を加算する。
(ロ) 抗悪性腫瘍剤を含む2以上の注射薬を混合して(生理食塩水等で希釈する場合を含む。)抗悪性腫瘍剤を無菌的に製剤する場合には79 点(6歳未満の乳幼児の場合は147 点)を加算する。
(ハ) 麻薬を含む2以上の注射薬を混合して(生理食塩水等で希釈する場合を含む。)無菌的に麻薬を製剤する場合又は麻薬の注射薬を無菌的に充填し製剤する場合には69点(6歳未満の乳幼児の場合は137 点)を加算する。 - 抗悪性腫瘍剤の場合は「医薬品等副作用被害救済制度の対象とならない医薬品等」において指定されたもの
- 同一日の使用のために製剤した場合又は組合せて1つの注射剤として製剤した場合においても、1日につき1回に限り、主たるものの所定点数のみ算定
- 無菌製剤処理を伴わない調剤であって、患者が施用時に混合するものについては、無菌製剤処理加算は算定できない
- 無菌調剤室を共同利用する場合の費用については両者の合議
「④同一日の使用のために製剤した場合又は組合せて1つの注射剤として製剤した場合においても、1日につき1回に限り、主たるものの所定点数のみ算定」については中心静脈栄養法輸液、抗悪性腫瘍剤、麻薬のうち複数調剤した場合においても、いずれか1つの点数のみしか算定出来ないことを示してあります。
(後述の疑義解釈資料参照)
主な疑義解釈
(問10)施設基準に適合した薬局において麻薬を無菌製剤処理した場合、無菌製剤処理加算と併せて麻薬加算も算定可能と理解して良いか。さらに、当該麻薬の服用及び保管状況等について説明の上で必要な薬学管理等を行った場合は、無菌製剤処理加算及び麻薬加算と併せて麻薬管理指導加算についても算定可能と理解して良いか。
⇒いずれも貴見のとおり。
(問11)中心静脈栄養法用輸液及び抗悪性腫瘍剤のうち1以上に加えて麻薬を合わせて一つの注射剤として無菌製剤処理を行い、主たるものとして、中心静脈栄養法用輸液又は抗悪性腫瘍剤の所定点数のみを算定した場合であっても、無菌製剤処理加算と併せて麻薬加算も算定可能と理解して良いか。さらに、当該麻薬の服用及び保管状況等について説明の上で必要な薬学管理等を行った場合は、無菌製剤処理加算及び麻薬加算と併せて麻薬管理指導加算についても算定可能と理解して良いか。
⇒いずれも貴見のとおり。
(問12)中心静脈栄養法用輸液、抗悪性腫瘍剤又は麻薬のうち2以上を合わせて一つの注射剤として無菌製剤処理を行った場合、無菌製剤処理加算については、主たるものの所定点数のみを算定すると理解して良いか。
⇒貴見のとおり。
(問13)無菌調剤室を有しない薬局が他の薬局の無菌調剤室を利用して無菌製剤処理を行った場合(薬事法施行規則第15条の9第1項のただし書における無菌調剤室の共同利用)、予め無菌調剤室提供薬局の名称・所在地について地方厚生局に届け出ていれば、無菌製剤処理加算を算定できると理解して良いか。
⇒ 貴見のとおり。
(問14)以下について、無菌製剤処理料を算定できると理解して良いか。
① 無菌製剤処理を行うにつき十分な施設又は設備を有しない薬局の薬剤師が、他局の無菌調剤室を利用して無菌製剤処理を行う
② 無菌製剤処理を行うにつき十分な施設又は設備を有しない薬局の薬剤師が、他局のクリーンベンチを利用して無菌製剤処理を行う
⇒①については、薬事法施行規則第15条の9第1項のただし書に該当するケースであり、届出を行った上で算定可能である。
②の設備(クリーンベンチ、安全キャビネット)の共同利用については、薬事法において認められていない。
・ 一般病棟入院基本料の「注11」及び特定一般入院料の「注9」における90日を超える入院患者の算定
・ リンパ浮腫複合的治療料
・ 処置・手術の時間外加算1
・ 無菌製剤処理加算
⇒必要である。
麻薬注射剤の日数
無菌製剤処理加算は各点数に調剤した日数をかけて計算します。
中心静脈栄養の場合の日数では1日1~2本のように分かりやすくなっていますが、麻薬注射剤の場合ではそうはいきません。
処方例として以下の記事の症例の処方で考えてみます。
https://pharmacyoutdoor.com/simulation1/
オキシコドン注50mg/5mL 10A
生理食塩液 50mL
合計 100mL
CADD Legacy PCAポンプにてベース0.2mL/h、レスキュー1時間量
このように処方箋に記載されており、何日分なのかは書かれていないことが多いです。
その際の考え方としては「在宅緩和ケアにおけるPCAポンプ実践ハンドブック」に紹介されています。
流量速度から計算される日数とします。
今回の処方例の場合では全量100mLを0.2mL/hで投与されるので約500時間分、20.8日と計算されます。
そこで20日分として無菌製剤処理加算を算定したいところではありますが、麻薬注射剤の処方日数については14日を上限とすることが記載されています。
今回の症例においてもベースだけでは20日分となりますが、レスキュー使用で短くなることも考えられるので無菌製剤処理加算の日数としては14日分として算定するのが良いと考えます。
ベースだけで14日分を超えない場合においては、計算された日数 (レスキュー使用を考慮しない) で良いでしょう。
しかしこのあたりの考え方については地域によってバラつきがあると思われるので、管轄の厚生局にあらかじめ確認するのが良さそうです。
注射薬の分割調剤について
無菌調剤の処方箋を受け付けた際には混合後の安定性の観点から複数の日にわけて調剤することが多くなります。
例えば以下のような処方を受け付けた場合です。
エルネオパNF2号輸液1,000mL 7キット
ガスター注射液20mg 7管
デキサート注射液3.3mg 7管
上記全て1日1管、1キットずつで混合。
このような場合の調剤基本料や薬剤調製料も含めて、各点数をどのように算定するのかを解説します。
Q. 注射薬が14日分処方されている処方を受け付けたのですが、その注射薬は長期保存が困難であるため、1度に交付できるのは数日分です。内服薬以外であっても分割調剤を行うことはできるのでしょうか。また、その場合、2回目以降の調剤基本料や薬剤調製料はどのように考えるのでしょうか。
注射薬であっても分割調剤を行うことは可能です。ただし、ご質問のケースにおいては、分割調剤の2回目以降に算定できる調剤基本料や薬剤調製料(無菌製剤処理加算は除く)などはありません。
分割調剤は、処方薬の長期保存が困難である場合や、患者が初めて当該後発医薬品を試用する場合などに行うことか可能で、医薬品の種類(内服薬,服薬、浸煎菜、湯菜、注射薬,外用薬)の違いによる実施の可否はありません。ただし、その際に算定できる点数(調剤報酬)については若干違いがあります。
分割調剤を行う場合、調剤基本料については、処方箋受け付け時(分割調剤の1回目)に所定点数(12~7点)を算定しますが(医師の分割指示に係る処方箋による場合を除く。以下、同じ)。それ以降(分割調剤の2回目以降)は、分割調剤を行う理由によって取り扱いが異なります。具体的には、①処方箋に記載された投与日数が14日分を超えており、かつ、処方薬の長期保存の困難性などが理由である場合には、「2回目以降の調剤」に1分割調剤につき5点を算定することが可能であり、②後発医薬品の試用を目的とする場合には、「2回目の調剤に限り」5点を算定することが可能です。
ご質問のケースは、処方薬の長期保存の困難性を理由とする分割調剤ですが、処方箋に記載されている投与日数は14日分を超えていないことから、2回目以降に5点を算定することはできません。
一方、薬剤調製料および調剤管理料の取扱いについては、算定する薬剤調製料および調剤管理料の区分によって異なります。ご質問のケースは注射薬ですので、ここでは内服薬や外用薬などについては割愛しますが、注射薬の場合、薬剤調製料は「調剤数にかかわらず。所定点数を算定する」とされていますので、処方箋受付時にしか薬剤調製料(26点)を算定することができず、したがって2回目以降は0点となります。ただし、無菌製剤処理加算に該当する場合には、分割調剤の都度、1日分の調剤につき69点または79点 (6歳未満の乳幼児の場合は137点または147点)を算定することが可能です。
また、分割調剤に係る調剤基本料として次回以降に5点を算定する場合には、処方箋を交付した保険医療機関に対して、分割調剤を行うことを照会(処方薬の長期保存の困難性などを理由とする場合)もしくは分割調を行った旨を連絡(後発医薬品の試用を目的とする場合)するとともに、調剤録に分割調剤を行った理由を記入することが求められていますので、忘れないようにしましょう。
保険調剤Q&A 令和4年版 日本薬剤師会/編より
ポイントをまとめます。
- 調剤基本料:14日を超えていない処方せんであるため分割調剤として2回目は算定できない
- 薬剤調製料:日数に関わらず一律である注射薬の場合、2回目以降は算定できない
- 無菌製剤処理加算:日数分の算定可能
処方例について具体的に点数がどうなるのか確認してみましょう。
中心静脈栄養法を受けている患者の場合は週に2回、訪問薬剤管理指導料 (居宅療養管理指導) が算定出来るため、今回3日分と4日分の2回に分けてと想定すると以下のようになります。
在宅患者訪問薬剤管理指導料や居宅療養管理指導費については週2回までであれば算定可能です。
以下の記事を参考にしてください。
無菌調剤設備があると依頼は来るのか?
無菌設備を導入するか迷っている場合、稼働するのか懸念されることが多いのではないでしょうか。
実際に無菌設備がある薬局における依頼状況についてみてみましょう。
まとめ
今回の記事では無菌製剤処理加算について解説しました。
-
届出が必要
-
無菌室の共同利用でも算定可能
-
麻薬注射剤の場合、希釈しないと算定不可
-
各点数は1日当たりの点数
まとめ資料を以下に掲載しておきます。
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