在宅の知識

【薬局の在宅訪問】薬剤師が知っておきたい介護保険制度

薬局では基本的に医療保険を使用するため、在宅医療でしか介護保険を使用するケースはありません。

従って介護保険の制度についてあまり知らない人が多いのではないでしょうか。

薬剤師が訪問に入ることになった際にケアマネジャーに連絡しますが、その際に「限度額ギリギリなので新たなサービス追加することは出来ません」などと言われることが稀にあります。

そのような際に適切に回答することが出来ますか?

今回の記事では薬局薬剤師が知っておくべき介護保険の知識についてまとめました。

 

介護保険制度の概要

1997年 介護保険法成立

2000年 介護保険法施行

高齢化の進展に伴い、要介護高齢者の増加、介護期間の長期化などによる介護ニーズは増大しています。

一方、核家族化の進行や介護する家族の高齢化など、要介護高齢者を支えてきた家族をめぐる状況も変化しておきており、従来の老人福祉・老人医療制度による対応には限界もあります。

このような背景から高齢者の介護を社会全体で支え合う仕組みとして介護保険制度は創設されました。

【基本的な考え方】

  • 自立支援・・・単に介護を要する高齢者の身の回りの世話をするということを超えて、高齢者の自立を支援することを理念とする。
  •  利用者本位・・・利用者の選択により、多様な主体から保健医療サービス、福祉サービスを総合的に受けられる制度
  • 社会保険方式・・・給付と負担の関係が明確な社会保険方式を採用

介護保険制度の概要,令和3年5月,厚生労働省老健局

 

被保険者

第1号被保険者:65歳以上の者

第2号被保険者:40歳から64歳までの者

介護保険制度の被保険者は65歳以上の者(第1号被保険者)と40~64歳の医療保険加入者(第2号被保険者)となっています。

65歳以上の者(第1号被保険者)は原因を問わず要支援・要介護状態となったときに、介護保険サービスを受けることが出来ます。

一方で、40~64歳の者(第2号被保険者)は以下に示すような特定疾病が原因で要支援・要介護状態になった場合に、介護保険サービスを受けることができます。

※特定疾病16種類

  • 筋萎縮性側索硬化症
  • 脳血管疾患
  • 後縦靭帯骨化症
  • 進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
  • 骨折を伴う骨粗しょう症
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 多系統萎縮症
  • 慢性関節リウマチ
  • 初老期における認知症
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱管狭窄症
  • 糖尿病性神経障害・糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症
  • 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
  • 早老症
  • 末期がん

保険料については40歳以降に医療保険の保険料と一括徴収として支払うことになります。

薬剤師が在宅訪問する際には介護認定の有無を確認する必要がありますが、40歳未満なら確認は不要です。

40歳以上では必ず確認しましょう。

医療保険か介護保険どちらを使うかは以下の記事を参考にしてください。

【薬局の在宅訪問】在宅患者訪問薬剤管理指導料と居宅療養管理指導費 -どっちを利用する?その違いは?-医療保険と介護保険を利用する際の要件や点数が異なることがあるため、薬局薬剤師が患者宅を訪問する際にはどちらを利用するかが重要です。 ...

また、介護保険を利用している患者でも在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料は算定できます。

そちらについても別記事で紹介しています。

【薬局の在宅訪問】在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料の算定方法を徹底解説!在宅医療の需要が高まり、薬局としても在宅医療に関わることが増えてきています。 しかしながら、外来とは異なり、在宅医療では算定する指導料...

要介護認定

介護保険制度では、寝たきりや認知症等で常時介護を必要とする状態(要介護状態)になった場合や、家事や身支度等の日常生活に支援が必要であり、特に介護予防サービスが効果的な状態(要支援状態)になった場合に、介護の必要度合いに応じた介護サービスを受けることができます。

 この要介護状態や要支援状態にあるかどうかの程度判定を行うのが要介護認定(要支援認定を含む)であり、介護の必要量を全国一律の基準に基づき、客観的に判定する仕組みです。

要介護認定は、以下の流れで行われます。

  1. 市町村の認定調査員による心身の状況調査(認定調査)及び主治医意見書に基づくコンピュータ判定(一次判定)
  2. 保健・医療・福祉の学識経験者により構成される介護認定審査会により、一次判定結果、主治医意見書等に基づき審査判定(二次判定)
  3. この結果に基づき、市町村が申請者についての要介護認定

この要介護認定は、介護の度合いに応じて「要支援1~要支援2」「要介護1~要介護5」の7段階に分けられます。

要介護状態の目安は以下のようになります。

また、介護認定審査会に薬局薬剤師で参加している方も多いです。

 

参加することで介護認定の仕組みや介護度から状態を推測できるようになる多職種との連携強化薬以外の視点が拡がるなどのメリットがあるようです。

機会があれば参加してみることをおススメします。

「要介護」と「要支援」の違い

要介護

「日常生活上の基本的動作についても、自分で行うことが困難であり、何らかの介護を要する状態のこと」

⇒日常生活全般において、自分一人で行うことが難しく、誰かの介護が必要な状態

要支援

「日常生活上の基本的動作については、ほぼ自分で行うことが可能であるが、日常生活動作の介助や現在の状態の防止により要介護状態となることの予防に資するよう手段的日常生活動作について何らかの支援を要する状態のこと」

日常生活は自分で行うことができるが、多少の支援が必要な状態

要支援認定では「介護予防サービス」が受けられます。

介護保険サービスの種類

介護保険サービスの種類を紹介します。

介護保険サービス利用の際には契約が必要となります。

契約書と重要事項説明書については別の記事にて紹介しているので参考にしてください。

【薬局の在宅訪問】契約書・重要事項説明書について徹底解説!様式のダウンロード可介護保険を用いた在宅訪問を行う上では契約書と重要事項説明書が必須となっています。 この記事では、なぜこれらの文書が必要か、どのように作...

要介護認定と要支援とでは利用できる介護保険サービスが異なりますが、今回は「要介護」認定を受けた方を対象としたサービスを中心に紹介し、「要支援」の場合に利用できないものを【】内に記載します。

また「要支援」の場合は全てのサービスのはじめに「介護予防」と入りますが、今回は省略します。

同じサービスでも、要介護度の違いによって利用する頻度も異なってきます。

居宅介護サービス

【訪問サービス】

  • 訪問介護【要支援:なし】
  • 訪問入浴介護
  • 訪問看護
  • 訪問リハビリテーション
  • 居宅療養管理指導

薬剤師による居宅療養管理指導は居宅介護・訪問サービスの1つになります。

【通所サービス】

  • 通所介護(デイサービス)【要支援:なし】
  • 通所リハビリテーション

【短期入所サービス】

  • 短期入所生活介護(ショートステイ)
  • 短期入所療養介護

【その他】

  • 特定施設入居者生活介護
  • 福祉用具貸与
  • 特定福祉用具販売

施設サービス

  • 介護老人福祉施設【要支援:なし】
  • 介護老人保健施設【要支援:なし】
  • 介護療養型医療施設【要支援:なし】
  • 介護医療院【要支援:なし】

地域密着型介護サービス

  • 定期巡回・随時対応型訪問介護看護【要支援:なし】
  • 夜間対応型訪問介護【要支援:なし】
  • 地域密着型通所介護【要支援:なし】
  • 認知症対応型通所介護
  • 小規模多機能型居宅介護
  • 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護【要支援:なし】
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護【要支援:なし】
  • 複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)【要支援:なし】

施設サービスであったり宿泊を伴うようなサービスについては居宅療養管理指導の算定可否が異なるケースがあります。

以下の記事で紹介しているので参考にしてください。

【薬局の在宅訪問】施設訪問の算定可否について徹底解説介護施設には多くの種類があります。 特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅、高齢者グループホーム・・・など多くあ...

 

居宅介護支援【要支援:介護予防支援】

居宅介護支援としてケアプランを作成し、そのプランに基づいて適切なサービスが提供されるよう、事業者や関係機関との連絡・調整を行うのがケアマネジャーの役割です。

「要支援」の方には地域包括支援センターが介護予防支援としてケアプランを作成します。

地域包括支援センター:すべての高齢者の相談を受け付ける施設

居宅介護支援事業所:要介護認定を受けている高齢者のケアプランを作成する事業所

利用者が可能な限り自宅で自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の心身の状況や置かれている環境に応じた介護サービスを利用するためのケアプランを作成します。

居宅介護支援・介護予防支援は、特定のサービスや事業者に偏ることがないよう、公正中立に行うこととされています。

負担割合

介護保険サービスを利用した場合、介護事業者に支払う費用(自己負担分)は1~3割と定められています。

介護保険の負担割合は「合計所得金額」と「65歳以上の方の世帯人数」によって決定されます。

多くの方が1割負担であることが多いですが、所得によって2割や3割の方もおられます。

介護保険負担割合証は毎年7月下旬に自動更新で各市町村から郵送で交付されます。

要介護認定の有効期間と異なるため、負担割合証については毎年必ず確認しましょう。

介護保険の支給限度額

要支援1・2、要介護1~5と認定された方が介護保険からの給付として月々に利用できる介護サービスの限度額が「支給限度額」として決められています。

支給限度額は要介護度で異なります。

支給限度額の範囲内で介護サービスを利用した場合の自己負担額はサービス単価の1~3割ですが、支給限度額を超えてサービスを利用した場合は越えた分が全額自己負担となります。

ケアマネジャーは限度額におさまるようにプランを立てています。

薬剤師が訪問に入ることになった際にケアマネジャーに連絡しますが、その際に「限度額ギリギリなので新たなサービス追加することは出来ません」などと言われることが稀にあります。

その際に薬剤師が知っておかなければならないこととして「限度額が適用されないケースもある」ということです。

支給限度額に含まれないサービス

以下のサービス(介護予防を含む)については、支給限度基準額に含まれません。

  • 居宅療養管理指導
  • 特定施設入所者生活介護(外部サービス利用型を除く)(短期利用を除く)
  • 認知症対応型共同生活介護(短期利用を除く)
  • 地域密着型特定施設入居者生活介護(短期利用を除く)
  • 地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
  • 介護老人保健施設
  • 介護療養型医療施設

これらのサービスについては利用しても、支給限度額には含まれないので、1~3割の負担割合で利用できます。

したがって冒頭に記載したようにケアマネジャーから「限度額ギリギリなので他のサービスが入れられない」と言われた際には、居宅療養管理指導は限度額には含まれないサービスであることを伝えましょう!

そのことを伝えることで、訪問薬剤指導が必要な方にサービスを提供することが出来ます。

介護認定の相談先

薬局に来られている患者さんが介護認定を受けておらず、介護サービスが必要な状態と思ったらどこに連絡すれば良いでしょうか?

まずは必ず本人や家族の同意を得てから連絡してください。

  • 市区町村
  • 地域包括支援センター

要介護認定の申請先は市区町村となっているので、まずは市役所や区役所などに問い合わせてみましょう。

また、患者さんの住所管轄の地域包括支援センターに相談すると良いかもしれません。

地域包括支援センターは前述した「要支援」認定者の介護予防支援を行う他、地域の高齢者に対して介護・医療・保険・福祉など様々な高齢者の困り事に対して必要なサービスや制度を紹介してくれます。

まとめ

介護保険についてはまだまだ掘り下げることは出来ますが、薬剤師が知っておくべき知識についてまとめました。

まとめ資料を以下に掲載しておきます。

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